特養に勤めてよかったこと
死ぬのがめちゃくちゃ怖かった
高校生の時に貴志祐介の『天使の囀り』を読んでから、死んだらどうなるんだろう、死ぬ間際に私は人生を後悔するしかできないのだろうかとそればかりで頭の中がいっぱいになり、年に5日ぐらい眠れない日があった
人の死に際を見たいから特養に就職したわけじゃないが、もしかしたらそういう不安を解消したかったのかもしれないと思う
ご存じだと思うが特養は看取りも行う
私が夜勤の時に亡くなられた利用者さんもいた
「今まで介助させてくれてありがとう」と思った
近くを通ると目で追ってくれたり、手を振ると振り返してくれたり、喋れなくてもコミュニケーションを取ってくれた(と私は思ってる)利用者さん達がいなくなる実感が湧かなかったりした
笑いながら「あ〜」と声を出して、ベッド上で膝を動かし、ころんころん左右に転がる利用者さんが好きだった
手を握るとぎゅっと握り返してくれて、たるみのある皮膚が柔らかくて気持ちよかった
食べることが好きで、口腔ケアを行う時に私の指を食べ物だと思ったのか、めちゃくちゃ噛んできた
歯がないから全然痛くなくて「〇〇さん、もしかして私の指、ご飯だと思ってますか?」と聞いたらまた笑っていた
他の職員と「〇〇さんの口腔ケア時、指噛まれるんですけど痛くないですよね〜」「確かに気持ちいいぐらいよね」と話したことがある
その方が亡くなった時、職員同士で「よくあの歳までしっかりご飯食べられていた」「〇〇さんのこういうところ好きだった」「センサー鳴りまくって大変だったけどね笑」「片麻痺だけど使える手で自走するからその場で回ってた時もあるんだよ」などと話すことがあった
他の利用者さんでも、自分が看取りに関われた時は嬉しかった
人が死んだ後、「あの歳までよく頑張ったよ」と言われることもあるんだと知れた
私は特別な才能もなく、何か生み出すこともなく、コンテンツを視聴する側で人生を終えるんだろうなと思って生きている
私が老人ホームに入って亡くなったら「よく頑張ったよ」と言ってくれる職員がいると思うと死ぬのがちょっと怖くなくなった
亡くなった大好きな利用者さんと同じ場所に行けるかなと思うと、死ぬのもいいかなと思う
死ぬのが怖くて泣いて夜を明かすことがなくなった
特養に勤めてよかったなと思う